肉はスタミナ食ではない   #迷信 #力が出ない #体力 #元気 #不要 #必要


日本に狂牛病が発生して大騒ぎになったとき、明らかに政府(農水
省・厚労省)と食肉業界がスポンサーとわかるテレビ番組が放送された。後手後手の対策で失態続きだった政府としては信頼の回復を図りたかったのだろうし、食肉業界は消費者の牛肉離れに危機感を持ったのだろう。番組のテーマこそ「狂牛病の知識」だったが、「病気にかかた牛肉が市場に出ることはないから、安心して食べてほしい」と訴えることが目的だったことは歴然としていた。
その番組の中で、パネラーの1人の学者が肉食の効用を盛んに説いていた。かいつまんで言うと、「肉には脳に非常に良い効果を与える物質が含まれていて、そして肉は何よりも体力を維持するスタミナ源である」というような内容だった。「脳に良い効果がある」という説のほうは、知識を持ち合せていないので反論もしようがないが、スタミナ源であるというのはかなり疑わしい。「肉はスタミナの素であり、食べないと力が出ない」とは、この学者に限らず、長年よく言われてきたことだが、これは何の根拠もない俗説と考えたほうがいい。

スタミナとは、体力、持久力、耐久力のことだが、そのスタミナが一番要求されるのはスポーツだろう。肉食はスポーツにどのような影響を与えるのか。スポーツの中でもとりわけスタミナが必要とされるマラソンを例にあげてみよう。

ドイツで、肉を多食するランナー(15人)と菜食主義者のランナー(15人)の30人の参加によるベルリン市内一周マラソンレースが行われたことがある。距離は、現在のマラソン42.195キロの約5倍、212キロという長丁場である。その結果、最後まで完走したランナーは6名、うち1着から4着までが、すべて菜食主義者のランナーだった。また、ベルリン−ドレスデン間193キロのレースでも、1着から6着までが菜食主義者だった。こうした事実は、肉食者よりも菜食者のほうがスタミナに優れていることを表している。

自転車の耐久レースの実験データもある。スポーツマンを、食肉愛好家、完全菜食主義者、半ベジタリアン(卵と乳製品は摂る)の3つのグループに分け、どのくらい長時間自転車をこぐことができるかという比較テストをした。結果、最も早くダウンしたのは、食肉愛好家グループで、次いで完全菜食主義者、半ベジタリアンのグループの順だった。スウェーデンの報告だが、この実験でも菜食者のほうがスタミナに勝っていることを示している。したがって、「肉はスタミナ源」などという説は、まったくの迷信であり、むしろ菜食のほうがスタミナがつくと考えざるをえない。

肉食信仰も、動物性食品の過剰摂取による生活習慣病が増えたため薄れてはきたが、それでも根が深く、今でも「肉は最良のタンパク質食品である」などと書いてある本もある。先のテレビ出演した学者もそうだが、食肉業界の回し者とも思えるような、こうした無責任な肉食賛美が、多くの人を誤った食へと導くのだ。戦後、「米を食うと頭が悪くなる」といった根も葉もない流言が信じ込まれて、日本の食文化を歪めてしまったように、である。

穀物や野菜には、肉以上に栄養素(スタミナ源)を含むものが少なくない。『日本食品標準成分表』から、エネルギーの項を見てみよう。食肉の中で最もエネルギー量の多い牛肉は、100グラムあたり975キロカロリーである。これに対して、大豆は1812カロリーで、牛肉の2倍近くある。タンパク質も牛肉100グラムあたり18.3グラムだが、大豆は33グラムと、大豆のほうが上回る。

カルシウムはどうだろうか。こちらも牛肉の4ミリグラムに対して、大豆のほうが21.7ミリグラムと5倍も多い。ほうれん草においては60ミリグラムあり、なんと牛肉の15倍のカルシウムが含まれている。また、ビタミン類は肉よりも、豆腐、果実のほうが豊富であることも付け加えておく。

人生はマラソンにも似た、長いスタミナレースである。そのことと健康を考え合わせると、菜食中心の食生活を送ることが、賢明というものではあるまいか。


中村三郎著「肉食が地球を滅ぼす」の、p217-p220より転載。
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