肉食が飢えを招く   #飢餓 #食糧難 #餓死 #食料不足


現代の畜産は、昔とは一変して穀物から食肉を製造する加工業になってしまった。食肉は、いわば穀物を濃縮パックした工業製品なのだ。では、その工業製品を作るのにどのくらいの穀物を使っているのだろうか。これが、とんでもない量にのぼるのだ。世界の穀物生産量は、年間約17億トンだが、なんと、そのうちの半分に近い、8億トン以上が飼料として消費されているのである。

わかりやすい数字で示すと、食肉1キログロムの生産に要する穀物量は、ブロイラーで2キログラム、豚で4キログラム、牛にいたっては8キログラムになるという。牛の場合、出荷れて食用になる500キロの体重にするまで、1200キログラムの穀物を食べさせなければならないのだ。

これは、とくに牛は飼料変換効率(エサが出荷時の体重に変換される効率)がきわめて悪いことを意味する。飼料に含まれるタンパク質の摂取の仕方が、人間が穀物を食料にして食べる仕方よりも無駄が多いからだ。摂取するエサのタンパク質のうち、わずか6パーセントだけが肉に変換され、残りは牛の体内を通過して糞尿などで排泄されてしまうのだ。つまり穀物によって生産された肉を食べるということは、人間が穀物を直接食べるよりもはるかに無駄な方法で作られた食物を摂り入れることなのである。

世界の人口は、およそ60億という。穀物の総生産量は年間17億トンだから、1人あたり1年に約280キログラムの穀物が世界中の人に分けられることになる。この量は、栄養を維持するのに十分ではないにしても、けっして少ない量ではない。

なのに、世界の多くの国の人間が飢えにされされ、栄養失調で苦しんでいる。それは、なぜなのか。答えは簡単である。穀物の分配がうまくいってないからだ。

たとえばアメリカでは、1人あたり年間1万トン以上の穀物を消費している。一方、栄養状態の悪い国が多いアフリカを見ると、1人あたり200キログロム程度である。もっとひどい国では、1人あたり100キログラムにも満たない。穀物分配のアンバランスがよくわかる。この分配の不均等には、ひとえに先進国と発展途上国との経済格差、いわゆる南北問題が大きく関与している。

しかもアメリカは、1万トン以上の穀物のうち80%は、穀物で飼育された家畜を食べて、つまり食肉という形で消費している。これは、アメリカほど際立っていないにせよ、先進国に共通の現象である。この食肉志向が、世界の飢餓に拍車をかけているのだ。本来、回ってくるべき穀物が、食肉を作るために使われて回ってこないわけだから、経済力の乏しい国は、いつまでたっても食糧難を解消できず、飢えるのは当たり前である。肉を食えば食うほど、富める国はさらに富み、飢える国はますます飢えていく仕組みになっているといっていい。人間が直接食べられる穀物を家畜に与えて肉に変えることが、世界の飢えを生み出す大きな要因となっているのだ。これは、何かとてつもなく間違った構造ではなかろうか。

現在、世界の30か国で5億の人間が飢えに苦しんでいる。その飢えた人間を救うには年間2700万トンの穀物を供給してやればいいという。食肉の生産に使われる世界の穀物の30パーセントだ。それを人間の食用に回すことができれば、世界から飢餓はなくなる計算になる。もちろん、事はそう単純には進まないだろう。しかし、今、我々が肉を食べるということが、途上国の飢餓という最も根源的な問題を引き起こしている現実を、しっかりと見つめる必要があるのではないか。


中村三郎著「肉食が地球を滅ぼす」の、p92-p94より転載。
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