栄養素にとらわれすぎる日本人


「栄養素」から食生活を考えることが、科学的なことだと思いこんできたことも問題の一つだ。栄養素とは、食物に含まれている糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル類のこと。現代の私たちは、食物にはどのような栄養素が含まれているのか、かなりのことについて知ることができるようになった。科学の進歩のおかげである。

しかし、それらの進歩が、現代の私たちの食生活にどのような影響を与えてきたのかを考えてみると、必ずしも良い影響をもたらしたとはいえないと思う。

例えば、後ほど詳しくふれていくが、長い間「肉は良質のタンパク質源」といわれてきたけれど、最近では「動物性脂肪の多い肉類は食べすぎないようにしましょう」などといっている。イカやタコ、貝類などは「コレステロールが多いので注意しましょう」といわれていたのに、今ではこれらの食品にはタウリンという成分が多く含まれていて、逆にコレステロールを抑制する働きがあることが分かったのだ。

さらに緑茶にはタンニンが多いので「飲み過ぎると鉄を吸着して貧血になる」といわれてきたのだが、近ごろでは「ビタミンCが豊富なので、ガンの抑制に効果がある」という意見がよく聞かれる。これと同じようなことは他にもあり、ホウレン草は鉄分が多いから貧血にいいという人もいれば、蓚酸が多いのでカルシウムと結合して結石になるという人もいる。

何がなんだか、何を信じていいのかさっぱり分からない状態になっている。食品にはそれぞれメリット、デメリットがあり、「身体にいい食品」が存在しないように、「身体に悪い食品」も存在しない。食品にはどんな栄養素が含まれているのかを知り、それを参考にすることは悪いことではない。

しかし問題は、ある一面だけを見て、例えばそれを絶対と考え、「小魚にはカルシウムがたくさん含まれているから食べよう」などと結論づけてしまうことなのだ。これでは、科学的な考え方とはとてもいえない。今の私たちは、栄養素のある面だけを見て善し悪しを判断する、「木を見て、森を見ず」の状態になってしまっているのではないだろうか。

「栄養のバランスをとること」が、健康のために大切なことだということを疑う人はいなだろう。もちろん栄養素のバランスがとれていることは大切なのだけれど、実際、どのようにすればバランスがとれているといえるのか、お分かりだろうか。

少し健康に関心のある人なら「1日に30品目の食品をとること」と答えるかもしれない。だが、それは正解ではないのだ。例えばビタミン1つをとっても、私たちの生命を維持していくのにいくつのビタミンが必要なのかすら、解明されていないのが現状だ。よく分かっていない栄養素のバランスをどうやってとればいいのかは、誰にも分からないはずなのである。

だから、栄養について話をするときには、「今、分かっている範囲では」という条件が必ずつくはずなのに、ほとんどの人がそのことを忘れて「1日30品目」とか、「栄養のバランス」といった言葉だけを鵜呑みにしてしまっているのが問題なのである。


※幕内 秀夫著「祖食のすすめ」P31〜P33より転載。
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