朝食は金ではなく「禁」


プラスの栄養学の象徴が「朝食はとらなければならない」という考え方です。朝食は健康にとって必要という考え方が医学、栄養学の世界では主流で、大勢を占めています。そのため、朝食はとらなければならないとの考えが世間一般に広く浸透しているようです。
香川靖雄・自治医大名誉教授が自治医大の学生を対象に行なった調査では、「朝食を抜いた学生は成績が悪い」という結果が出ています。群馬大学医学部と香川医科大学の調査でも、同様の結果が得られています。
朝食を抜いた学生の成績が悪い理由を、同教授は、「脳のエネルギー源であるブドウ糖が行き渡らないため思考力や活動が低下する」と説明していますが、果たしてそうでしょうか。
甲田博士は、この説には賛成しかねるといいます。
脳の重量は体重の約2パーセントですが、脳はエルネギーをひじょうによくつかう臓器で、体の全消費エネルギーの18〜20パーセントを必要とします。しかも、エネルギー源は100パーセントがブドウ糖です。脂肪や蛋白質はつかわないとされており、従来、理論的にはそういわれてきました。
朝食必要派の理論は以下のようなものです。
わたしたちが一日活動するのに2400キロカロリーを消費すると仮定して、その20パーセント(480キロカロリー)をブドウ糖で補給するとすれば、1日120グラムのブドウ糖が必要になります(ブドウ糖1グラムは4キロカロリーに相当)。もし夕食でブドウ糖を60グラム補給できたとしても、8時間眠っているあいだにそれを全部つかってしまうので、当然、朝、目が覚めたときはブドウ糖はなくなっています。
だから朝食をとらないといけない。とらなかったら脳へのエネルギーの供給が不足し、脳の働きが低下するため、頭がボーッとして仕事や勉強の能率も下がるというのです。
同様の報告はいくつもなされていて、この理論を擁護することになっています。ところが、これらの調査には落とし穴があると、甲田博士は指摘します。
たとえば、現在の一般的な状況では、朝食をとる学生のほうが、とらない学生よりも規則正しい生活を送り、真面目に勉強をしているとも解釈できるでしょう。朝食をとるとらないが成績に反映するかどうかは、生活全般にわたって同じ条件のもとで比較をしないかぎり、正確な結論を出すことはできないでしょう。
ちなみに、香川教授の著書では、NHKの人気テレビ番組『ためしてガッテン』のなかで行なった実験の結果を紹介しています。
この実験は、習慣的に「朝食を食べる派」と「いつも朝食を食べない派」のグループに分けて、就寝時間は同じ時間とします。両グループとも、前日昼はメンチカツ定食、夕食は牛肉ですが、朝食を食べないグループは午前中にお腹が減るであろうことを考慮して、前夜にバターラーメンを食べてもらい、エネルギーを補給して寝ました。
翌日、午後8時30分から11時30分まで、4回にわたり集中力の検査を行なった結果は、11時30分になっても大差がつき、朝食を食べないグループと食べるグループでは、20対2と、間違えた回数は圧倒的に朝食を食べない派が多かったと報告されています。
しかし、この実験では、朝食を食べない派には夜食にラーメンを食べさせており、この点において、条件が同じではありません。甲田博士によると、夜食をとれば、翌朝に集中力が低下するのは当然であるといいます。

【朝食を抜くと脳は働かない?!】
では、仮に、夜食をとらないという同じ条件のもとで、「朝食を食べる派」と「食べない派」に分けて実験をしたらどうなるのでしょうか。
ふだん朝食を食べている人が、いきなり朝食を抜いてこのような実験をしたら、頭がボーッとしたり、体に力が入らなかったりするでしょう。この感覚、体験も朝食必要論を擁護することになっていると思われます。だからといって、脳のブドウ糖が足りないからよくないと考えるのは早計というもの、と甲田博士はいいます。
ふつうに朝食をとっていると、脳はブドウ糖をエネルギー源としてつかいますが、食事を抜くと、脳は別の物質をエネルギー源としてつかうことがわかっています。カナダのオーエンス博士の実験によって、そのことは明らかにされました。
同博士は「断食中に脳がなにをエネルギー源としてつかうか」という研究を行ないました。その結果、β-ヒドロキシ酪酸が50パーセント、α-アミノ窒素とアセト酢酸がそれぞれ10パーセントずつで、ブドウ糖は全体の30パーセントにすぎなかったというのです。
「脳はこのようなエネルギーのつかい方をするので、朝食を食べなくても、本来的には、脳へのエネルギーは不足しないのです。頭がボーッとしたり、ふらついたりすることはないし、逆に頭は冴えわたります。
朝食は健康にとって、金であるどころか、銀でも銅でもありません。わたしにいわせると、朝食は有害物以外の何物でもありません。
朝食を食べないとスタミナがでないという考えも、朝食抜きを実践したことがないゆえです。
慣れないうちは体に力がでないように感じるでしょうが、1〜2ヶ月もつづけて慣れてくると、朝食を食べていたころよりもスタミナがついてくることを実感します」
と、甲田博士は断言します。なるほど、朝食抜きの生活に切り替えると、1ヶ月もしないうちに慣れてきて、空腹を感じなくなります。これは、朝食抜きの1日2食を実践している人なら、だれもが実感していることで筆者もそれは体験しており、不思議でもなんでもありません。ただし、前日の夜遅い時間に食事をすると、翌朝はいつもよりも空腹を感じます。
朝食必要派の見解は、机上の理論にすぎない。朝食抜きを体験することもせず、机上の理論をふりかざしている人たちにはぜひ、体験して実感していただきたいものだと、甲田博士はすすめています。

〜省略〜

【午前中は胃腸にとっては排泄の時間】
くり返しになりますが、甲田博士は、「朝食は健康にとって金でも銀でもない、有害物以外の何物でもない」との立場をつらぬいています。その大きな理由のひとつは、排泄すべき時間帯である午前中に食べるからだといいます。
1日のうちで午前中は「老廃物を排泄して、胃腸を休ませるべきとき」で、その時間帯に食べるということは排泄にブレーキをかけます。
その根拠として、モチリンというホルモンの分泌が挙げられます。
空腹になると、腸は蠕動運動を亢進させて、モチリンと呼ばれる消化管ホルモンがでてきます。この物質は、腸の運動を活発にして、腸管内に残っている内容物を排泄するために分泌されるものです。1971年、カナダのブラウン博士によって発見されました。空腹のときに、お腹がグーッと鳴ることがありますが、このときモチリンの分泌が高まるというのです。
このメカニズムは群馬大学の伊藤漸教授が内視鏡で確認し、明らかにしています。モチリンは通常、空腹が8時間つづくとでてきますが、食事の量が多いと、分泌されるまでの時間が長くかかります。
現代医学は、だす(排泄する)ということをまったく無視し、おろそかにしています。朝食必要派は、摂取することの利点や重要性は強調するが、排泄に関してはいっさい触れていないと、甲田博士は疑問を呈しています。無視しているというより、その視点をもたないといったほうが当を得ているかもしれません。
朝食をとり、排泄をおろそかにした生活をつづけていると、どうなるのでしょうか。
「胃腸は体調の良し悪しの大本です。朝食をとる習慣を長年つづけていると、排泄すべき時間帯に胃腸に余計な負担をかけることになります。結果的に胃腸の働きを弱め、宿便をため込む原因になります。そして、それが肝臓、腎臓などのほかの臓器へも悪い影響を及ぼして、やがてさまざまな不調や、ひいては病気をもたらすことになるのです」



東 茂由著、甲田 光雄(監修)「長生きしたければ朝食は抜きなさい」
P34〜P42より転載しました。
http://amzn.to/SQOkKF
全文転載したいくらい良い本でした。